尽きない好奇心とワクワクを胸に、
“まだ答えのない問題” を解き続けたい。

田上大喜

2018年入学 第2期生

コロンビア大学卒業

京都教育大学附属高等学校出身

「家族の中で妹ばかり蚊に刺されるのはなぜ?」幼い頃に抱いた疑問を解き明かすため、14歳の頃に自宅で始めた蚊の研究。

「家族の中で妹ばかり蚊に刺されるのはなぜ?」幼い頃に抱いた疑問を解き明かすため、14歳の頃に自宅で始めた蚊の研究。新しい発見への情熱は、田上大喜さんをアメリカのコロンビア大学、そしてイギリスのオックスフォード大学へと導きました。今も研究に邁進する彼の思いを伺います。

新しい発見への情熱は、田上大喜さんをアメリカのコロンビア大学、そしてイギリスのオックスフォード大学へと導きました。今も研究に邁進する彼の思いを伺います。

August, 2025

10代半ばで始めた “蚊の研究” が
世界への扉を開いた

― 中学から高校にかけて行った蚊の研究で、「蚊に刺されやすい人と刺されにくい人の違いは足の裏に存在する菌の種類にある」ことを突き止め、そこから田上さんの “研究者” 人生が始まったように思います。

蚊の研究を通して、本当にたくさんの人に出会い、世界が広がった感じがします。それこそ、アメリカの大学に進学したいと思うきっかけになったのも、全国SSH(スーパーサイエンスハイスクール)発表会に参加した時に僕のブースに来てくださった海外の研究者の方々と交流したこと。いろんな国の人々と意見を交換しながら、一緒に研究ができたらいいなと感じて、大学は海外に行きたいと思うようになったんです。「海外大に行きたいな」という思いが、「アメリカの大学に絶対に行く」に変わったのは、カリフォルニア大学のアンソニー・ジェームス博士が研究の “最先端” の話をしてくれたから。僕が当時行った実験では、蚊に特定の物質の匂いを嗅がせて観察するというものでしたが、アメリカの大学で行われている研究では、最先端の機器が揃ったラボで遺伝子を分析するというお話でした。大学では遺伝子の研究をしたらどうかと言ってくださって、それでもう、意地でもアメリカの大学に行きたいって思いました。

僕の通っていた高校はいわゆる国立大学付属の高校。どうやら当時アメリカの大学を受験したのは僕が初めてだったみたいで、僕も先生方も受験準備は手探りでした。でも先生方が助けてくださり、僕も必死に勉強して、いくつかのアメリカの大学から合格をもらいました。絶対受かると固く信じていましたし、もうアメリカの大学に絶対行くと、それ以外は考えていなかったです。

中高時代に夢中になった「蚊の研究」。道具は身近なものを使って自作した。手書きの激励メッセージは大学時代の恩師から。

神経科学の研究所を有するコロンビア大学で、
研究漬けの毎日がスタート

コロンビア大学へ進学を決めた理由はいくつかあります。その一つは、ラビスカラー(I.I. Rabi Scholar、理系分野の学年から約10名だけが選ばれるプログラム)として合格し、入学前から研究ができると聞いたこと。高校時代は自宅でダンボールやペットボトルで蚊のハウスを作り僕の血を与えていたんですが、それが世界有数の大学のラボで早々に研究ができるかもしれないということで、すごくテンションが上がりました。コロンビア大学の教授の方々とはメールでやり取りさせてもらって、ショウジョウバエを使って神経幹細胞の研究をしている研究所に行くことになりました。

― 神経科学の研究所として知られるザッカーマン研究所ですね。神経幹細胞を研究しているラボとのことですが、ジェームス博士が田上さんにおっしゃったように、遺伝子の研究に携わることになったのでしょうか。

はい。ショウジョウバエの遺伝子の中で、どの遺伝子が神経幹細胞に影響を与えるのかについて研究をしていました。なぜこの研究が役立つのかというと、ショウジョウバエの遺伝子の多くは人間と似ているんです。ショウジョウバエが持つ遺伝子の中で、神経幹細胞に繋がるものを見つけられれば、人間に応用することができます。つまり、神経幹細胞に影響を与える遺伝子を人間においても特定できるかもしれない。それができれば、iPS細胞などを使い、例えばパーキンソン病の原因となる神経細胞を含む脳の一部の細胞を作り出すことへの可能性が広がります。

具体的にラボで何をしていたのかというと…。まず、遺伝子組み換えをして、調べたい遺伝子を “持っていない” ショウジョウバエを育てます。育ったら神経細胞や神経幹細胞を取り、異常がないか確認する。それを1つ1つの遺伝子に対して行うんです。結構時間がかかるんですけど、毎日ラボに通い、特定の遺伝子を持っていないショウジョウバエを1種類ずつ育てていきました。でも遺伝子って何万と種類がある上、組み合わせも重要なんですよ。遺伝子Aをなくすと正常だけれど、遺伝子Aと遺伝子Bどちらもなければ異常になるということがありえます。そうなると、何百、何万回もの実験が必要になってしまいます。

柳井財団の関係者や在校生などを前に、自身が行なってきた研究の内容についてスピーチ。蚊の研究から遺伝子の研究へと進んだ道のりと思いを話した。

研究領域は遺伝子、AI、そして数学へ

遺伝子を一種類ずつ個別に調べることは高い精度が保証されますし、その作業も楽しいんですが、生物が持つ遺伝子のデータは膨大。AIを使わないと分析しきれないということで、教授に相談し、ザッカーマン研究所のAIに関するラボにも所属することになりました。ザッカーマン研究所は僕に研究の実務的な基本を教えてくれた場所。最初はマイクロピペットの使い方すら分からなかったけれど、教授や大学院生、ポスドク(博士研究員)の方々が、自身の研究の様子を見せてくれたり、AIで脳のデータをどう分析するのかを教えてくれたりしてくださいました。そしてAIのラボで研究をしているうちに、数学の知識が必要だなということに気づいて、数学の理論の研究もすることに…。

― 遺伝子からAI、数学へと、研究対象がどんどん広がっていったのですね。

財団主催のイベントでは、研究への情熱を柳井正理事長に伝える一幕も。

そうですね。特に数学の理論の研究は博士課程に進むことを決めるきっかけになりました。大学5年間で大学院修士課程まで修了できるプログラムに選抜されていたので、修士までの道すじは見えていましたが、もうちょっと博士課程について知りたいと思い教授に相談して、まだ3年生だけれど博士課程の授業を取らせてもらったんです。それが本っ当に難しかった(笑)。実際に授業を取ってみて分かったんですが、大学院における研究は “理論の研究” 。現実のいろんなケースに対して当てはめることができる理論を作り出すというのを目標にして、研究をやっているんです。

当時、僕が参加した授業の教授は、Mallows Modelという確率論に基づいた数理モデルを専門にされていたので、僕もそのMallows Modelの研究をやってみることに。授業についていくだけでアップアップなのに数理モデルの研究もできるなんて嬉しかったし、僕にとってすごくいい経験になりました。というのも、これまで数学の授業は答えがある問題を解いていたけれども、答えそのものを見つけるのが研究で、そのためにいろんな技法があるということを教わって。それが心に刺さりました。

今はイギリス・オックスフォードで研究を続けている。「もっと自分の知識を上げて、自分でイチから研究の道のりを立てられるようになりたいです」

研究を続けて答えのない問題を解く。
大変だけど、やっぱり楽しい

“答えのない問題” は数学だけじゃなく、いろんな分野においてもあること。答えのない問題を解くのは大変だけど楽しいから、それをこの先、何年もかけてやるのってすごくいいなと思いました。しかも、数学の理論を用いて遺伝子関連の問題を解いていくこともできる。だって、もし “遺伝子の定理” みたいなものを発見したとしたら…。つまりそれは、僕たちの遺伝子がどんなふうになっているのかを数学でしっかり表されることになります。それができたら面白いな、やってみたい!そう思って、博士課程に進むことに決めたんです。

― コロンビア大学を卒業後、イギリス・オックスフォード大学大学院の博士課程に進まれました。オックスフォード大学では統計学の部門に所属されていますね。

Mallows Modelの研究でお世話になったコロンビア大学の教授に、授業で教わった数学の理論や考え方を生物に応用させて研究していきたいという話をしたら、オックスフォード大学がいいんじゃないかと推薦してくださいました。今はゲノム解析の研究に携わっています。具体的には、今の遺伝子検査の精度は欧米人に偏っているので、全ての人が平等に精度の高い遺伝子検査、引いては遺伝子医療を受けられるように研究を頑張っているところです。遺伝子のデータを解析するプログラムを開発するといった技術面は完了しているので、あとは卒業までに遺伝子のデータ解析と理論的な研究を行う予定でいます。これからの医療は遺伝子医療になっていくはず。その発展に僕の研究が繋がると信じています。

帰国中も大忙しの田上さん。「日本にいますが、オンラインで教授と毎週会議をしたり、論文を書いたり、データ分析をしたりしています」

14歳で初めて感じた “実験の面白さ” 。
その頃から今も変わらず、研究が好き!

― “蚊に刺されやすい妹を助けたい” から、“全ての人にとって精度の高い遺伝子検査・医療” まで、田上さんの目標はずいぶん大きくなりました。

「『こうだったんだ!』と分かる瞬間がすごく楽しいし、嬉しい」

目標は大きくなりましたけど、研究者としての僕の原点はやっぱり中学生から高校生にかけて自作した “蚊の実験” だったなと思います。その時の「実験って面白いな」「論文を読むのって重要なんだな」という気持ちとか、「こうだったんだ!」と分かる瞬間。研究をしていると、今も同じ気持ちになることがあって、それがすごく楽しいし、嬉しいです。やっぱり僕って、その頃から今もずっと研究が好きなんですよね。世の中には、僕よりも頭のいい人や努力できる人がたくさんいるけれど、知的好奇心とか、研究が大好きな思いとかは、僕ならではなのかなって思います。

College Life

― 最後に、中高生のみなさんへメッセージをお願いします。

コロンビア大学時代、僕は自分のやりたいことを表現してきました。「ラボで遺伝子の研究をしたい」「AIの研究をしたい」「博士課程の授業を受けてみたい」…。アメリカの大学はそれをやらせてもらえるところ。どうしても海外大にいきたいというなら、最後まで諦めずに受けて、自分のやりたいこと、目標を叶えてほしいです。

田上大喜 2018年入学 第2期生

コロンビア大学卒業

京都教育大学附属高等学校出身

「やらないといけないことリストが1,000個くらいあった」という海外大の受験を経て、渡米。学部生時代から授業のない時間帯や土日にもラボ通いをし、勉学と研究を両立した毎日を送る。夢は遺伝学の分野で多くの発見をし、たくさんの人、動物の命を救う科学者になること。

その他のインタビュー