「余白」を作りながら、自分だけのペースで進む。
1年間、大学から“離れて”見えたこと。

森田恵美里

2017年入学 第1期生

プリンストン大学

神戸大学附属中等教育学校出身

データサイエンティストとして国際機関で働くことを目指し、プリンストン大学に進学した森田恵美里さん。文系理系の科目を問わず“惹かれるもの”を学び、大好きな音楽にも取り組んできた2年間ののち、彼女は1年の休学期間を持つことにしました。

データサイエンティストとして国際機関で働くことを目指し、プリンストン大学に進学した森田恵美里さん。文系理系の科目を問わず“惹かれるもの”を学び、大好きな音楽にも取り組んできた2年間ののち、彼女は1年の休学期間を持つことにしました。 今年2021年、コロナ禍も経て久しぶりにキャンパスに戻ったばかりの森田さんに、休学の時間も含めた大学生活について話を聞きました。

今年2021年、コロナ禍も経て久しぶりにキャンパスに戻ったばかりの森田さんに、休学の時間も含めた大学生活について話を聞きました。

August, 2021

政治が日常会話に出てこないのはなぜ?
1つの違和感から見えてきた将来の目標

― 大学に進学する前、森田さんは将来の目標を「データサイエンティスト」、「データという観点から理系と文系の溝を埋め、高齢者医療システムの開発などに携わりたい」としていました。どのようなきっかけで、データサイエンスに興味を持つようになったのですか?

ニュージャージー州中部に位置し、アメリカでは4番目に古く、1746年に設立されたプリンストン大学。街並みにもアカデミックな雰囲気が漂う。

きっかけは、高校の卒業研究です。私は文理選択で理系に進んだので、周りの同級生たちは化学物質とかタンパク質とかを研究テーマに選んでいたんですが、私はもうちょっと政策っぽいことをやりたいなと。特に、選挙、投票率をテーマに何か実験をしたいなと思ったんですよね。それはなぜかというと、周りの子たちが政治の話を全然しないことにすごく違和感を感じていたからです。私は小学生の時にアメリカに住んでいて、その当時はちょうどバラク・オバマが初めて大統領に選ばれた選挙があった頃だったので、小学校でも家庭でも、政治の話をするのが日常の一部でした。だから日本に帰ってきて、政治が話題に上がらないこと、若い人の投票率がかなり低いことに、衝撃を受けたというか。それで、卒業研究では、模擬選挙を学校で開いて、事前にいろんな人に資料を読んでもらって、どの資料を読んだら投票に来てくれるのかというのを調査してみました。今振り返ると、本当に“なんちゃってデータサイエンス”なんですけど(笑)。投票に足を運んでくれた人と、忘れちゃった人とそれぞれいて、その行動をデータに落とし込んで、分析する、というプロセスがすごく楽しかったんですよね。1人1人が決めたこと、感じたことが各自の行動に繋がって、それがデータとして見えるというのを面白く感じて。あとは単純に、グラフを作ったりとか、データをまとめたりするのが好きだったというのも、データサイエンスに興味を持つきっかけの1つだったかなと思います。

― データサイエンスという興味分野を持っていた森田さんが、アメリカの大学、特にプリンストン大学を選ばれた理由は何ですか?

矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、専攻を決めなくていいというのが主な理由でした。データサイエンスは学びたいけど、政治も社会学もやってみたいし…という感じで、専攻を決め切ることはしたくなかったんです。あと、私は小さい頃からバイオリンをやってきたこともあって、音楽もできる場所が一番の希望でした。それならアメリカの大学かなと、目を向けるようになりましたね。プリンストン大学は、真剣に音楽をやってきた学生が集まるくらい、音楽にも力を入れているところがいいなと思いました。大学の分類としては、大学院と研究施設も備えた総合大学なので、専攻をどう決めても、絶対にいい先生がいて、いい勉強ができそうだなと思って、プリンストン大学に決めました。

幼い頃から音楽が好きで、特にバイオリンを弾き続けてきた森田さん。相棒のバイオリンと一緒に。

大学で経験する世界が全てじゃない。
“カレッジバブル”から離れて、気づいたこと

― 実際にプリンストン大学に進学して、学んでみた印象はどうですか?総合大学だと、リベラルアーツカレッジと比べて大規模で、学部生よりも院生、研究に力を入れるイメージがありますが…。

実は通っている感覚でいうと、リベラルアーツカレッジとそこまで変わらない感じなんです。学部生が5,000人、院生が3,000人くらいで、総合大学の規模的には小さい方だと思います。学部生の割合が高いので、総合大学とリベラルアーツカレッジの中間のような印象ですね。教授からのサポートも厚いです。研究に力を入れているのが特徴で、卒論を必ず書かないといけないのはアメリカの大学の中でも珍しいと思います。あと、他のアイビー・リーグ(アメリカ屈指の名門大学といわれる8大学の総称)の大学と比べると、プリンストンはアカデミックな雰囲気があると言われることが多いですね。授業は本当にどれも面白いですよ。なので、結構、勉強を頑張っている人が来る傾向にあるのかなあと思います。海外進学について聞かれると、大学のいいところばかりを話しがちになるので、あえて大変なことも言っていいですか?(笑)

― ぜひお願いします!

大学にもよると思う、というのは大前提で。これまでの大学生活の中で、自分や周りの学生たちを見て思うのは、“カレッジバブル”、“プリンストンバブル”ってよく言われるんですけど、大学にいると、その場所、その世界だけが全て、みたいな感覚に陥っちゃうことが多いなということ。正直に言うと、学生同士で比べられることも、なくはないと感じます。例えば、すごく興味のあった構内のプログラムに応募したけど、選考に落ちてしまったとか、参加したかったグループに参加できなかったとか、そういうことが積み重なって、ストレスになることがあると思うんです。大学内で、「勉強が大変で2時間しか寝ていない」とか、「ご飯を食べる時間もない」と自慢するような、不健康なカルチャーを見かけることもあります。そういうところに吸い込まれないように、気をつけてほしいなと思いますね。私自身、学部2年生が終わった後に1年間の休学をして、大学ってすごく特殊な場所だなと感じました。離れてみると、例えば、“ご飯も睡眠も取らずに勉強すること”に対する価値観って、本当にその場だけのものだなって改めて気づいたり…。程よく距離を取って、大学という場所を客観的に見ることも大切だと思っています。

可愛らしいプリンストンの街並みを背景に。ニューヨークへも日帰りで行くことができる便利な地域。

休学は“大学生活の中の必要な時間”。
この期間があったからこそ、学びがもっと充実する。

― 森田さんが休学を決めた時、おそらく“カレッジバブル”の真っ只中にいて、判断にずいぶん迷われたのではないかと想像します。その決断をするのに、背中を押したものは何でしたか?

コロナ禍を経た今でこそ、休学はわりと誰でもできる選択肢になってきた気がするんですけど、私が休学するかどうか考えていた時は、周りに休学をした人があまりいなくて、本当にいいのかなって迷いましたね。いろんな人に相談する中で、住んでいる寮の寮長さんにも相談しに行ったんですが、「今まで休学して、後悔したっていう人は1人も聞かないよ」って言われて。その言葉を聞いて、「休学したのは間違いだった」なんて思うことはないんだろうなと感じて、決めました。実際、休学した1年間は、私の大学生活の中で必要な時間だったと思っています。

― 休学は「必要な時間だった」ということで、休養も含めて、貴重な経験や気づきが多くあったのかなと思います。1年間の休学期間を振り返って、「休学したからこそ、得た」と思うものは何ですか?

4年次を迎え、大学生活もラストスパート。卒業論文の執筆も控えている。

たくさんあって、何を話そうかな…(笑)。1つは、“余白のある生活”が自分には合ってるなと知ったこと。時間に余白がないと、たとえ自分がすごく好きな音楽でもやりたいなと思わなくなって、バランスが崩れてしまうんだなと気づいたんですよね。だから、できるだけ自分が大切にしていることを残して、余白も作る、ということを心がけるようになりました。もう1つは、大学のその先にある将来について、考える材料をたくさん集められたこと。休学中に、政策系のシンクタンクでインターンとしてお世話になって、将来やりたいことに新しい可能性が加わった気がしています。そのシンクタンクで私が手伝っていたのは、“政策起業家”という存在を知ってもらい、増やしていこうというプロジェクト。“政策起業家”とは、政治家でも官僚でもない立場から、政策に関与する民間の人、研究者、NPOの現場の人のことをいいます。善意で作られた政策が、実は現場ではボトルネックになってしまう場合も考えられるので、現場の声をちゃんと吸い上げて、落とし込む形で政策提言ができる“政策起業家”たちが、これからもっと必要になるはず。そういう背景で動いているプロジェクトで、共感することがたくさんありました。私は将来、最終的には政策の場で役に立つ人になりたいなと思っていますが、データサイエンティストという立場以外にも、“政策起業家”のように政策づくりの現場から始めてみることもできるなという気づきも得て、すごくいい経験だったなと思っています。

College Life

― 最後に、海外進学を考えている中高生のみなさんに、メッセージをお願いします。

海外進学を希望する学生さんから、どういう課外活動をした方がいいですか、どういう賞を取れば海外大学に行けますか、と聞かれることがたまにあるのですが、中学高校の時に自分が本当に面白いと思ったことを追求することの方が大事。それがないと、大学以降の次に繋がらないと思うんです。私自身は高校で卒業研究をした時に、周りの同級生たちとはちょっと違うけど、本当に自分が面白いと思うことに取り組んでみて、それが結果的に大学で勉強したいことに繋がっていきました。だから、いろんな活動をするにしても、受験ベースではなくて、自分がやってみたいと思うことを軸にするのがいいんじゃないかな。また、アカデミックやキャリアのことだけじゃなくて、自分の生活を心地よくしてくれるものも大切にしてほしいなと思いますね。

森田恵美里 2017年入学 第1期生

プリンストン大学

神戸大学附属中等教育学校出身

小学生時代をアメリカで過ごし、帰国。幼い頃から音楽、バイオリンが好き。プリンストン大学でも管弦楽団「Princeton University Orchestra」や学生が運営をする室内楽のグループ「Opus Chamber Music」などに所属し、活動を続けている。

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