大学1年目でも感じる自分の変化。
成長するからこそ、目標も変わる。

川上礼志郎

2022年入学 第6期生

スワースモア大学

海城高等学校出身

アメリカ·スワースモア大学に進学し、1年次を終えた川上礼志郎さん。自由に、幅広く学ぶことができるリベラルアーツ教育の刺激を受け、「将来の目標が変化し続けている」と言います。

アメリカ·スワースモア大学に進学し、1年次を終えた川上礼志郎さん。自由に、幅広く学ぶことができるリベラルアーツ教育の刺激を受け、「将来の目標が変化し続けている」と言います。 どんな刺激を受け、何を考え、どう変化を遂げてきたのか、彼の”これまで”を追いました。

どんな刺激を受け、何を考え、どう変化を遂げてきたのか、彼の”これまで”を追いました。

August, 2023

多様な社会が身近にあった高校時代。
外国籍の住民たちの力になりたいと思った。

― このインタビューを実施する前に、「高校3年生の頃は『移民政策の専門家』を目標に掲げていましたが、今は移民問題に対する自分の意見やアプローチが変化してきた」とご連絡をいただきましたね。どのように変化したのでしょうか?

はい。どう変化してきたかというと、具体的には、「政策」や「日本」に限らない移民·難民問題へのアプローチに注目するようになってきました。

― それではその変化をお伺いする前に、まず、大学に進学する前、高校生の頃に、移民政策の専門家になりたいと考えたのは、どんな理由からでしょうか?

東京大学で行われている「東京大学・アジア女子大学合同 サマープログラム」の合間に、話を伺った。

そうですね、幼い頃から、親の仕事の都合で海外に住む時期があり、留学をしていたこともあったので、人の多様性や様々な背景を持つ人たちとの関わり方について興味がありました。移民政策について考えるようになった直接的なきっかけは、高校3年生の時に行った、地元の東京·新大久保に住む外国人住民についての調査です。僕は小学6年生から高校3年生まで新大久保に住んでいて、通っていた小学校、中学校、高校も新大久保にあります。新大久保は住民の3割以上が外国籍といわれており、韓国、中国出身の方はもちろん、最近では東南アジア、南アジア出身の方も増えている地域です。そこで、すごく身近な存在でもある彼らにインタビューをしてみて分かったのは、言語の問題など様々な障壁でCOVID-19のワクチンを受けづらかったり、日本人との繋がりやコミュニティが持ちづらかったりなど、苦しい立場にあるということ。彼らの力になりたいという気持ちと、多様な人々との共生への興味が合わさって、移民政策に関心を持つようになりました。

調査を進めていく中で、新宿区役所の方や、区で運営している「しんじゅく多文化共生プラザ」で活動している市民団体の方ともお話しする機会があったのですが、市区町村などの地域レベルでは、できる政策に限りがあるということが分かってきたんです。それを解決するには、国レベルでの後押しが必要だと感じ、将来の目標は「移民政策」に焦点を当てようと思いました。だから大学では、各国の法律を比較し論じる「Comparative Law(比較法学)」と、民族的背景が人々に与える社会的、経済的、政治的な影響を研究する「Sociology of Race and Ethnicity(人種と民族性の社会学)」を学びたいと考えていました。

秋からスワースモア大学での2年目が始まる。新学期以降も知的興味関心に合わせた探求活動を行う予定。.H.カー著『歴史とは何か』もある。

リベラルアーツ·カレッジの中でも
より自由度の高いスワースモア大学へ

― 多様性や移民政策に興味があるとすると、やはりアメリカの大学進学は自然な選択肢だったのでしょうか。

そうですね、アメリカは国の中心に移民政策があり、大学をはじめ、政府や民間も多様性をテーマに様々な取り組みを行っていますから。でもその前は、実は日本国内の国公立大学が第一志望だったんです。まずは日本の大学受験をしっかりやって、自分のやりたいことが海外の大学の方がよりできると分かったら、海外の大学を受験しようと思っていました。多様性、移民政策に興味を持つようになってから、国内と海外の大学を比較してみて、日本の大学だと、移民問題に関する授業がそもそも大学院にしかなかったり、移民問題を扱っている教授が少なかったりと、日本の大学ではあまり学べないことに気づきました。それで海外の、特にアメリカの大学に進学したいと思ったという流れです。

アメリカの大学の中でもスワースモア大学に進学したのは、受験の時からスワースモアに惹かれていたから。アメリカの大学受験をする時って、大学のメーリングリストに登録し、大学から「私たちはこんな大学ですよ」というメールを受け取るのですが、スワースモアだけ、メールに詩が書いてあったりとか、韻を踏んだメール文になっていたりとか、遊び心のあるメッセージが印象的でした。僕は勉強を楽しいと感じることが多く、とにかく熱中して勉強したいと思っているけれど、勉強ばかりにはなりたくない気持ちもあります。スワースモアはアカデミックで有名な大学ですが、シリアスになりすぎない環境がありそうでいいなと思いました。

あとは、リベラルアーツ·カレッジなのも理由の一つ。スワースモアは文系理系問わず、いろいろな学問を探求することを勧めています。例えば、1年生の1学期目は成績が付かない仕組みにして新しい分野に挑戦しやすくしたり、専攻を選ぶ時に「Special Major」という自分で専攻をデザインできる仕組みがあったりします。移民政策と一口に言ってもいろいろな切り口がありますし、アメリカでうまくいっている政策が日本でもうまくいくかというと、そうとも限りません。世界共通の正解がない公共政策だからこそ、分野を横断した多角的な視点を持ち、自分の頭でちゃんと考えられるようになりたいと思って、リベラルアーツ·カレッジの中でもより自由なスワースモア大学を選びました。

参考図書がたくさんつまったリュック。友人からもらった大切なお守りが揺れる。

考えていた目標に
疑問を抱き始めた大学1年目

― スワースモア大学で学び始め、ご自身の目標にどんな変化が現れたのでしょうか。

移民政策の専門家という目標が変化し始めたきっかけの一つは、1年次の1学期目に受けた「Foundation of Sociology」という社会学のイントロダクションの授業。資本主義や移民をテーマに研究をしている教授が教えてくれるのですが、その教授自身も、少年時代にメキシコからやって来た移民なんです。一度は不法滞在者として収監され、その後、コミュニティカレッジを卒業して今に至る…という経験を持つ教授で、すごく説得力のある、刺激的な講義でした。その授業で最も衝撃を受けたのは、特にアメリカでは、移民の立場というものが、資本主義や国の都合で左右されてしまっているということ。例えば、カルフォルニアの農場で働くメキシコ系の移民の人たちは、不法に滞在して農場で働いているけれど、安い働き手として経済的な観点から重要だということで、その不法性には目をつぶられていることもあります。つまり、資本主義的な構造の中で、国の“政策”として搾取されていると言えるのではないか…。移民の問題に、果たして“政策”というアプローチが適切なのか、疑問を持ち始めたんです。

また、異なった文化、言語、出身の人たちが多様に混ざり合うアメリカでは、移民だけを判別して支援するのは難しいと、現地で暮らすうちに感じるようになりました。経済的に余裕があるから海外に移住した人たちも移民と呼べるわけなので、比較的裕福な環境の人たちもいれば難民という状況の人たちもいて、移民は多様化しているといえます。そうすると、“移民”という括りにこだわらず、周りの地域開発や、コミュニティを巻き込んだ取り組みをしていった方がいいんじゃないか。そう思う中で、目にした現実と自分の多様性に関する興味関心をどう繋げていったらいいのか分からなくなったのが、スワースモア大学での1年次でした。

移民・難民問題に関する書籍を見せてくれた川上さん。撮影後も東京大学に戻り、講義に参加…と、夏休みも大忙し。

― その1年次を経て、今年の夏休みは「東京大学·アジア女子大学合同 サマープログラム」に参加されましたね。

はい。ジェンダーや歴史、文化との関わり合いの中で、移民·難民についてもっと深く、幅広く探究したいと思い、参加させてもらいました。ちょうど先日プログラムが終わったのですが、東京大学の教授から講義を受けたり、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)やJICA(国際協力機構)、ファーストリテイリング財団などの方にお話を聞きにいったりと、充実した11日間でした。

アジア女子大学は、受けられる教育の選択肢が少ない環境で育った女子学生たちに学ぶ場所を提供するため、バングラデシュに設立されたリベラルアーツ大学で、生徒の中には迫害を受け、逃れてきた難民という立場の人たちもいます。彼らと一緒にロヒンギャの難民について学んだのですが、危機的状況から逃れることもできず、国にとどまるしかない人たちもいることを改めて知り…。また、難民として他国に移動できたとしても、受け入れ先のコミュニティとの間で軋轢が生じたり、双方のアイデンティティが揺さぶられるような危機が発生したりする可能性もあります。このプログラムを経て、もし自分が力になれるのなら、難民の人たち、また、難民の受け入れ先となるコミュニティ、社会の力になりたいと思うようになりました。なので今は、移民というよりは、難民にまつわる問題に関心があります。

柳井正財団4期生の山田健人さんとは、同じ高校の先輩・後輩。今も連絡を取り合い、いろいろとアドバイスをもらっているそう。

変化は、成長の証
それで自分の可能性も広がる

― もうすぐスワースモア大学に戻り、2年次が始まります。“難民“に向いたご自身の目標は、これから何を経て、どんな変化を遂げていきそうですか?

一つ、特に楽しみにしている授業があるんです。それは「Digital Ethnography(デジタル エスノグラフィック調査)」という授業。インタビューやフィールドワークを使って人の行動様式などを理解する文化人類学の調査手法「エスノグラフィー」を、インターネットで行い、分析、批判することを学びます。実は、1年次に、理系のこともやってみたいなと思い受けた「Introduction to Computer Science」の授業が面白くて、それ以来、コンピューターの応用にも興味を持つようになりました。この分野をもうちょっと掘り下げてみたいこともあって、「Digital Ethnography」を受講しようと考えています。

あと3年の大学生活の中で、興味関心や目標がどう変化していくのか。スワースモアでの刺激的な毎日がまた始まる。

「東京大学·アジア女子大学合同 サマープログラム」でも、ロヒンギャの難民支援においてできることを、僕たち自身が考えてプレゼンするシンポジウムがあり、そこでスマートフォンやインターネットを通して、教育や啓蒙活動を行う提案をしました。ロヒンギャの社会で暮らす女性は平等な教育を受けられず、識字率が低いため、様々な情報や機会へのアクセスができないことが問題視されています。でも彼女たちの生活にもスマートフォンは比較的普及しているため、テクノロジーを使った解決策は効果的ではないかと。ですので、難民にまつわる様々な課題に、こういった方面からアプローチすることに今は興味を持っています。

また、ビジネスの方面からのアプローチにも関心を持っているところです。「東京大学·アジア女子大学合同 サマープログラム」で、柳井正氏にもお会いする機会がありました。そこで、柳井氏がおっしゃっていた「ファーストリテイリングには、事業と社会貢献の両輪がある。新しい国に事業展開する際に必ず考えなくてはいけないのは、自分たちのビジネスがその国の人たちにとって、どうより良いものになるのかということ」を聞いて、また少し、立ち止まって考えるようになりました。ビジネスは政治的なしがらみにとらわれずインパクトが出せる方法。ビジネスを通して、難民や難民を受け入れるコミュニティに対しアプローチする可能性も考えていきたいです。スワースモア大学と提携のあるペンシルベニア大学で、ビジネスの授業を受けるのもいいのではないかと。大学を卒業するまで、これからも新しい物事を吸収して、将来の目標が変化していくんじゃないかと思います。

College Life

― 最後に、海外進学に興味のある中高生の皆さんに、何かアドバイスはありますか?

アドバイス、上から目線になっちゃって難しいですね…。僕のインタビューを読んで、将来の目標や、やりたいことが変わってもいいんだなっていうことを感じてもらえたら、嬉しいです。高校生の時に見える自分の未来と、大学に進学した後になって見える自分の未来って、違うことが十分にあり得ます。それは必ずしも、悪いことじゃないと思うんです。新しいことを体験していくうちに、自分のやりたいことが変化していくのは、成長の証し。それが自分の可能性をどんどん広げることにも繋がるはずです。

川上礼志郎 2022年入学 第6期生

スワースモア大学

海城高等学校出身

同じ海城高等学校を卒業した第4期生の山田健人さんとは、先輩後輩の仲。趣味は「周りを観察して考えること」。その考えをまとめたノートは12冊以上にものぼるそう。能楽鑑賞も好き。

その他のインタビュー