安部奈穂
2022年入学 第6期生
イエール大学
アメリカン スクール ファンデーション出身
幼い頃からさまざまな国で暮らしてきた安部奈穂さん。彼女が強く惹かれたのは、何世代にもわたって維持されてきた人々のコミュニティとその背景にある「歴史」でした。
幼い頃からさまざまな国で暮らしてきた安部奈穂さん。彼女が強く惹かれたのは、何世代にもわたって維持されてきた人々のコミュニティとその背景にある「歴史」でした。 イエール大学入学を目前に控えた安部さんに、歴史を学ぶことに対する情熱や意義、意気込みを聞きました。
イエール大学入学を目前に控えた安部さんに、歴史を学ぶことに対する情熱や意義、意気込みを聞きました。
August, 2022
好きな歴史の本を持参してくれた安部さん。写っているのは、クリストファー・ロイド著の『137億年の物語:宇宙が始まってから今日までの全歴史』と、ジャレッド・ダイアモンド著の『UPHEAVAL』。
私、もとから日系人の歴史にすごく興味があったんです。その興味の大元を辿ると、5歳から小学3年生まで住んでいたブラジル・サンパウロでの経験に行き着くかなと思います。ブラジルは、1920〜30年代の頃に何万もの日本人の方が移住した歴史がある国で、今もたくさんの日系人の方がブラジルで暮らしているんです。例えば、私が通っていた幼稚園の先生も日系人の方で、「私のひいおばあちゃんの家族が、船で日本からブラジルに来たんだよ」、「最初は農家だったんだ」といろんな話をしてくださいました。たくさんの日系人の方からいろんな話を聞いていくうちに、私も日本から離れて暮らす日本人のひとりとして親近感を感じるようになっていき、それがだんだんと日系人の歴史に対する興味、歴史そのものに対する関心に変わっていった…という感じです。
その興味が、日系人を取り巻く環境や歴史保存に関する問題意識と結びつくようになったきっかけは、実はこのコロナ禍に参加したZoomイベント。日系人の方と日本人がオンラインで交流できるイベントで、そこでロサンゼルスのリトルトーキョー(アメリカ最大とも言われる日本人街)で暮らす日本人の方とお会いしたんです。その方が、「今、リトルトーキョーのコミュニティがどんどん小さくなってしまっている。居場所を奪われている」ということを話してくださって。
そうですね。その話を聞くまでは、居場所って、私にとっては一時的なものだったんですよね。正直に言うと、それまでは居場所、コミュニティを意識する機会はあまりなかったです。何代も前から同じ場所で暮らしてきた方にとって、コミュニティの外から人が来て、急に開発が始まって、物価や家賃が上がって、そこに住めなくなってしまうって、一体どういうことなんだろう。そこにあった歴史が壊されてしまうってどういうことなんだろうと、初めて考えるきっかけになりました。それから現在まで、リトルトーキョーの住民の方にそれぞれのライフストーリーを聞いて集める、“オーラルヒストリー”のプロジェクトを続けています。その人の幼少時代から現在に至るまで、記憶に残っている出来事やその時に何を感じたのかということをインタビューして、掘り下げていくんです。そしてインタビューの最後にいつも聞いているのが、「あなたにとって、リトルトーキョーってどんな場所なんですか」ということ。歴史あるコミュニティの一員として、リトルトーキョーに暮らすことはどういうことなのか、その場所を失いかけていることはどんな意味を持つのか、紐解いていくということを、個人の活動として行っています。
そもそも歴史って、“今まで来た道”。歴史というのは、過去の出来事からなぜそれが起きたのか、その理由や関係性を考えて、そこから教訓みたいなものを得て、現在に生かすためにあるんだと思っています。私の大好きな歴史家のE.H.カーさんが『歴史とは何か』という本で、「歴史は現在と過去との対話である」と述べていますが、現在は孤立して存在しているのではなくて、過去との関係を通じて明らかになる、ということなのかなと。つまり、歴史は“今まで来た道”だから、来た道がわからないと、今どこにいるかもわからなくなってしまう。過去の事実を上手く理解できないと、現在起きている事柄に対しても盲目的になってしまうんじゃないかと思うんです。
“今まで来た道”だからこそ、自分の属する社会と自分自身を深く知るための大切な役割もあります。今と自分をよく知り、過去の教訓を生かすためには、歴史を学ぶだけではなく、残していく必要があるんだと思っています。学ぶためにも残す必要がある、とも言えるかもしれません。
歴史に強く惹かれてはいるけれど、さまざまな学問を横断的に学ぶアメリカの大学に進学することを選択した。
まず、イエール大学は歴史全般にすごく強くて、特にアジア史に強いところを魅力に感じました。あと、高校3年生の時に、研究助手として少しだけお世話になっていた教授の方がイエール大学で教えているのも大きかったですね。コロナ禍で来日できない時期だったので、私が夏休みの時間を使って、日本の資料館に足を運んで必要な資料を入手するお手伝いをしていました。資料は地図を描いた絵図だったんですが、その絵図をソフトウェアを使って分析をするんです。本当にいろんなことを深く知っている教授で、高校の先生は知らないような歴史研究の手法とか、ツールをいろいろと教えてくださって。この先生のもとで絶対に学びたい!という気持ちも、イエール大学を選ぶ動機になりました。
そうなんですよね。私、実はもうひとり、好きな歴史家がいて、現役の歴史家でピーター・フランコパンさんという方なんですけど…。フランコパンさんもイギリス出身で、今はオックスフォードの教授なんですよ。オックスフォード、すごい悩んだ…。悩んだんですけど、18歳で決める決断って変わるかもしれないじゃないですか。人生長いですし。今は歴史だと思っているけれど、もしも歴史以外に、何かこの分野すごいというものを見つけた時にはそっちにも集中できる環境がいい気がして、イエール大学にしました。イギリスの大学だと、1年次から専攻に入っていくので。
はい、あります!「Directed Studies」というプログラムで、1年生向けの授業です。古代ギリシア・ローマから近代に至るまで、政治、歴史、哲学に関する本を読んで、「今の社会がなぜこういう形になったのか」というのを理解していく、という…。実はもう早速課題図書が出ていまして、例えば、ヘロドトスの『歴史』。分厚くて、もうびっくり。700ページもあるんですよ。これくらいの分厚さの本を1年で30冊くらい読まないといけないらしいので、ちょっと、大丈夫かな〜みたいな感じに、なっております(笑)。この「Directed Studies」が唯一、事前に応募しないといけない授業なんです。
そうですね、歴史に興味がある人たちが集まると思うので、今からすごく楽しみです! 高校では歴史について議論しつくせなかった部分があるので、大学でとことん議論したいと思っています。
「好きな歴史の本がありすぎて、どれを持っていこうか迷った」と話す安部さん。持参した本の中には、もちろんE.H.カー著『歴史とは何か』もある。
イエール大学は歴史に強いですし、オーラルヒストリーに詳しい教授もいますので、オーラルヒストリアンとしての知識と技術を身につけたいと思っています。そういう技術を身につけたら、今度はその知識と技術を、歴史を守る、保存する活動のために使っていきたいです。実はそれ以外にも考えていることはあって、例えばイエール大学で歴史を学んだあと、法律を勉強して、歴史保存の法整備にも関わってみたいなと。今、歴史的な建造物を保存しようと思うと、その建造物の所有者に莫大な金銭的負担がかかってしまうんですよね。そうなると、どんなに歴史的に価値があったとしても手放す、建て替えるという選択になってしまいます。そういう負担を軽減して、ひとりひとりが歴史保存に貢献しやすい社会を、法律的なアプローチでも作っていけるんじゃないかと考えています。
渡米を控えた夏休みだけれど、すでに課題図書を読み進める日々を過ごす。
そうですね。課外活動も受験勉強も、大変なことがたくさんあると思います。上手くいくことよりも、上手くいかないことの方が多いかもしれません。それでも諦めない人こそが、海外の大学に行ける人だと思うんです。どんなに辛いことがあっても諦めない、挑戦し続けるってことを大事にしてほしいと思います。あとは、大学に入るまでも大変だと思うんですけど、大学に入ってからも大変そうだということもお伝えしようかと…(笑)。以前、海外大学に進学した先輩方のお話を聞く機会があったんですが、先輩方みなさん、「勉強がすごく辛い」って言うんです。「もう寝る暇もないくらい大変だ」って、すごいニコニコして、めっちゃ楽しそうにしゃべるんですよ(笑)。本当に大変なんだろうけど、すごく楽しいんだろうなと思います。そういう環境で大学を過ごしてみたいなって思うなら、自分の目標を貫いてください!
イエール大学
アメリカン スクール ファンデーション出身
小学校から高校までさまざまな国での生活を体験し、メキシコの高校を卒業。これからの大学生活で楽しみにしていることは、発掘調査を行うサマープログラムに参加し、マヤ・インカ文明に触れること。趣味はフィギュアスケート観戦。