数学とコンピューターサイエンス漬けの毎日。
「問題解決の仕方」を試行錯誤することが、楽しい!

篠川誠人

2021年入学 第5期生

オックスフォード大学

東京都立小石川中等教育学校出身

1年次から専門性の高い学びに入っていくイギリスで、「数学とコンピューターサイエンス」を専攻する篠川誠人さん。

1年次から専門性の高い学びに入っていくイギリスで、「数学とコンピューターサイエンス」を専攻する篠川誠人さん。 ロボット作りや競技プログラミングに打ち込んだ高校時代を経て、オックスフォード大学へ進学。1年が経った今、自分の興味・関心を真っ直ぐ貫き、大学で“好きなこと”に磨きをかけている彼に、お話を聞きました。

ロボット作りや競技プログラミングに打ち込んだ高校時代を経て、オックスフォード大学へ進学。1年が経った今、自分の興味・関心を真っ直ぐ貫き、大学で“好きなこと”に磨きをかけている彼に、お話を聞きました。

August, 2022

高校生の頃からずっと、
問題の解き方を工夫することが好き。

― 篠川さんが「将来は革新的な技術の開発に関わる」という未来の姿を描いてオックスフォード大学に進学し、もうすぐ1年が経とうとしています。実際に学びを進めてみて、どうですか? 何か自身に変化はありましたか?

大学に進学して初めての夏休み。帰国中にお話を伺った。

大学に入学する前は、その時に興味のあった囲碁AIや量子コンピューターのことが頭にあって、将来は革新的な技術の開発に携わりたいと考えていました。でも今は、AIに対して興味があるとか、量子コンピューターに対して興味があるというよりは、もっと広い分野に対して興味を持つようになったなと感じています。僕は「数学とコンピューターサイエンス」を学んでいますが、講義を受けてみて思ったのは、コンピューターサイエンスと一口に言っても、すごくいろんな分野があるなあということ。今の流行りの内容ばかりではなくて、昔から研究されてきた古典的なものでもすごく面白そうだったりして、どんどん視野が広がっている気がします。その分、将来やりたいことも、AIや量子コンピューターみたいな革新的な技術の開発に…というよりは、もっと漠然と広くなった感じがしていて、なんとなく、もっとコンピューターが速くなったらいいなとか、そういうふんわりした気持ちに近くなりました。

― 素朴な疑問なのですが、コンピューターが速くなると、どんないいことがあるんでしょう?

速くなるっていうのは、この場合、2、3倍スピードが速くなるということではなくて、大きなデータに対しても解けるか、ということなんです。「フカシギの数え方」っていう動画、ご存じですか。コンピューター系の界隈ですごく話題になった、組み合わせの数え方について教えてくれる動画です。これがどういう内容かというと、1×1の四角形で左上の頂点をスタート、右下の頂点をゴールとした時に、スタートからゴールまで何通りの通り方があるかを数えていくというもの。最短経路である必要はなく、遠回りをしてもいいけれど、同じ頂点を2回通るような遠回りの仕方をしてはならないというルールです。1×1の四角形であれば通り方は2通り、2×2であれば通り方は12通りあります。しらみつぶしに数える方法もあるんですけど、マスの数が大きくなると、通り方の数は膨大に増えていきます。8×8くらいになるともう3000兆くらいの通り方に達してしまって、しらみつぶしに調べていくと時間はかかるし、大変ですよね。

でも例えば、最新のアルゴリズムを使うことで、16×16でも数十分くらいで通り方の計算ができるというのがあるんです。これは何というか、コンピューターそのものが速くなるわけではなくて、数え方を工夫することで、組み合わせの数をより速く求められるということ。計算の仕方を工夫することによって、計算そのものが速くなって、より大きな問題を解けるようになる。これが、自分の興味分野でもあります。

自宅でも大学でも使うPC。「前学期はコンピューターサイエンスの比重が増えました。内容は基礎分野ではあるものの、機械学習やソフトウェア工学など、さまざまな技法を身につけられています」

アルゴリズム次第で、大きな問題も速く解ける。
それを考えるのが楽しい!

― 高校生の頃に書かれたエッセイでも、「組み合わせの最適化に興味がある」とされていましたね。「数学的な考察や多様なアルゴリズムを組み合わせて、試行錯誤するのが楽しい」と。

そうですね。計算の仕方を工夫してより速く問題を解くのが、自分にとって楽しいことだっていうのは、大学に入る前から変わってない気がします。以前から、ロボットを作って大会に出たりだとか、競技プログラミングに参加したりしていて、高速に問題が解けるのはすごく楽しいです。より大きな問題に対して、アルゴリズム、つまりは問題解決の仕方を考えることに、今も変わらず興味を持っています。

問題を解く時は、コードに落とす前に紙に書いて解き方や計算式を整理することも。

― その楽しさを感じた原体験は何でしたか? ロボット作り、それとも競技プログラミングでしょうか?

最初は、ロボット作りかなと思います。僕が主に担当したのは、ロボットに搭載するカメラ周りでした。カメラに何が映っているかとか、映ったものとロボットがどういう位置関係にあるかというのを割り出す、というコードを書いていたんです。カメラにのっているコンピューター自体はすごく貧弱だったというか、計算が遅いコンピューターだったので、それでもできるだけ、遅延を少なく、高速に計算を回すにはどうしたらいいのかなっていうことを、当時いろいろ考えて。計算の仕方を工夫すると、目に見えて速くなるんだということを目で見て実感できて、それが本当にすごく楽しかったなっていうのを今も覚えています。

得意科目と苦手科目がはっきりしていた高校時代。
イギリスの大学の方針は自分にぴったりだった。

― 篠川さんは高校までずっと、日本で教育を受けてこられました。留学経験もないということですが、海外大学、特にイギリスの大学への進学を希望されたのはなぜですか?

実は僕、海外の大学に絶対に行きたいというよりは、選択肢が増えるのはいいなと思った、という感じなんです。日本の大学も受験していました。東京大学を目指していて、オックスフォード大学も受けて、もしオックスフォードに受かったらそっちに行こう、という気持ちだったんです。特にイギリスの大学がいいなと思ったのは、早くから専攻に取り組めるから。日本やアメリカの大学に行くと、必ずしも専攻とは関係ない教養課程を1年次から受けることになります。イギリスだと高校の段階で、日本の大学の1年生ぐらいまでの内容が終わっていて、大学ではどんどん専攻に絞ったことをやっていく方針なので、それが自分にとっては魅力的でした。学部課程が3年間、修士課程が1年間と、4年で修士まで取れるっていうのもいいなと。あとは、修士や博士を取ろうと思った時に、学部から海外の大学で学べていると、その先の選択肢がさらに増えると思ったのもあります。それから、なんかイギリスいいなっていう気持ちもありました(笑)。「オックスフォード大学生の1日」みたいな動画を見ていると、歴史のある街並みとかがすごく魅力的で、そういうのに対する憧れもあって、イギリスの大学を志望しました。

― アメリカの大学を選ばなかったのは、主に学部を卒業するまでに4年かかる、専攻に入るまでに教養課程がある、という理由からですか?

そうです、それが大きかったですね。あ、あと、もう一つ理由があって…。これは夢のない話なんですけど、僕は高校生の頃、数学と英語は得意だったんですけど、他の教科はあまり勉強していなくて…。競技プログラミングをやったり、数学オリンピックをやったり、ロボットを作ったりして、好きなことに時間を充てていたこともあって、あんまり学校の勉強をやっていなかったんです。数学と英語はまだ良かったけれど、社会とか全然ダメで。あんまりいい生徒ではなかったと思います。そう思うと、イギリスで1年次から好きなことを学べるのが、僕にはすごく合う選択だったと思っています。

― 「イギリスだと高校の段階で、日本の大学の1年生ぐらいまでの内容が終わっている」ということで、イギリスの大学に入学する際、特に日本の公立校出身だとファウンデーションコース(大学進学のための準備コース)を受けることが一般的ではないかと思います。篠川さんはファウンデーションコースを通らずに、オックスフォード大学に進学されていますね。どのような対策や勉強を行ったのでしょうか?

「IBを取る機会のない公立高校から、ファウンデーションコースを通らずにイギリスの大学に進学した過去の例が見つからず、情報を集めるのが大変でした」と話す篠川さん。

高校にIB(国際バカロレア)があれば、IBを取って、ファウンデーションコースを通らずに1年次がスタートできるんですけど、僕の高校にはIBがなくて。しかもオックスフォード大学のファウンデーションコースって、イギリス国内の学生向けなんです。僕と似た環境の人をインターネットで探してもほとんど見つからず…。なので、大学のアドミッションオフィスとか、Aレベル(高校卒業資格・大学入学資格)の試験をやっている団体から、直接情報を集めるしかなくて、ひたすらリサーチしていました。リサーチだけでもすごく時間がかかったし、疲れちゃって(笑)。大学のアドミッションオフィスにメールで何度か尋ねたこともありますが、すごく詳細に、親切に教えてくれたのは、すごくありがたかったです。情報を集める方法として、大学に直接聞くというのはおすすめです。

― Aレベルの試験は、日本にいながら受けられるんですか?

それが受けられたんですよ。調べてみて、自分でもちょっと驚いたんですけど。普段はIELTSをやっている団体がAレベルの試験を実施していますし、Aレベルのカリキュラムで教えているインターナショナルスクールで受けることもできます。Aレベルはそもそも日本の高校よりちょっと進んだ内容なので、インターネットでAレベルを受ける高校生向けの情報を探して参考にしたり、試験機関が出している公式の教科書があるので、それを電子書籍で買って勉強したりしていました。

― もうすぐ2年次が始まります。大学卒業後、大学院でさらに学びを深めていくことを考えているかと思いますが、今の時点で、篠川さんはどんな自分の未来を描いていますか?

今、数学とコンピューターサイエンスをどちらも半々で学んでいますが、いずれどちらかを選んで特化していくことになります。どちらにするか、正直まだ迷っているところです。僕、考え事をするのが好きなので、実社会で何かをするというよりは、研究自体に関われたりする方が、自分には合っているかなと感じています。ある問題に、すでにある技術を当てはめるのではなくて、基盤を作ったり、新しい技術そのものを考えたりすることが将来できたら、幸せだなあ。

College Life

― 最後に、海外大学への進学を考えている中高生のみなさんに、メッセージをお願いします。

学部卒業まであと2年。その後、大学院への進学も視野に入れている。

あんまり偉そうなことを言えた立場じゃないんですけど、高校生の時にオックスフォード大学のウェブサイトで「数学とコンピューターサイエンス」のコースを見て、「あ、なんか楽しそう。こんなコースがあるんだ」って、すごくワクワクしたのを覚えていて。それがなかったら、オックスフォードに来ていなかったと思うんですよね。その気持ちがターニングポイントになったと思うので、当時の高校生の自分に、「そのワクワク感は大事にして正解だよ」って伝えたいなと、今は思います。すみません、あくまで個人の感想なので、あまり気安く海外進学を勧められない…(笑)。やっぱり英語のコミュニケーションは大変ですし、お金もかかりますし。日本でも海外でも、やりたいことに向かって頑張ってほしいなと思います。

篠川誠人 2021年入学 第5期生

オックスフォード大学

東京都立小石川中等教育学校出身

高校時代には、数学オリンピック、ロボカップジュニア世界大会、競技プログラミングのコンテストに参加。大学では、柔道とポーカーのソサエティに参加している他、寮生活での自炊も楽しむ。友達と通話をしながら、オンラインで一緒にゲームをプレイするのも好き。

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