海外進学は、“遠い話”じゃない。
茨城の県立高校とハーバード大学を繋いだ、覚悟ある一歩。

松野知紀

2021年入学 第5期生

ハーバード大学

茨城県立日立第一高等学校出身

茨城県の県立高校を卒業し、ハーバード大学に進学を決めた松野知紀さん。

茨城県の県立高校を卒業し、ハーバード大学に進学を決めた松野知紀さん。 「海外の大学に進学した先輩や友人は、周りに1人もいなかった」という環境で高校までを過ごした松野さんが、なぜ海外の大学に興味を持ち、渡米することに決めたのか。これまでの道のりとその先を、入学を控えた彼に聞きました。

「海外の大学に進学した先輩や友人は、周りに1人もいなかった」という環境で高校までを過ごした松野さんが、なぜ海外の大学に興味を持ち、渡米することに決めたのか。これまでの道のりとその先を、入学を控えた彼に聞きました。

August, 2021

きっかけは、「自分のいる場所から、
一歩外に出てみたい」。

― 松野さんは茨城県ご出身で、小学校から高校まで、公立の学校に通われていました。ともすると、海外大学に進学するという発想自体が生まれにくい状況ではないかと思いますが、松野さんが、進学先として海外に目を向けるようになったきっかけは何だったのですか?

そうですね。海外の大学に進学した先輩や友人はまず周りにいなかったですし、海外で働いている人も、私は聞いたことがない環境でした。そもそもなぜ、海外に行こうと思ったかというと、実は明確なものっていうのはあまり思いつかないんです。ただ、外に出たい欲というか、自分のいるところからちょっと一歩、外に出てみたいなという気持ちは小学生の頃からずっとありました。そういう気持ちを持ったまま中学生になり、やっと真面目に英語を勉強し始めたんですよ。それで英語が話せるようになるにつれて、もっと話したいなという気持ちにもなってきて、中学2年生の時にオーストラリア・シドニーに1ヶ月間、語学学校に通う短期留学に行きました。いろんな国の子たちと授業を受ける中で、すごく記憶に残っているのが、オーストラリアは島なのか、大陸なのか、という議論。定義上は大陸なんですけど、島だって言う子たちがいて。本来は授業でやるはずだったトピックじゃなくて余談程度から始まった話だったのが、島だと思う側、大陸だと思う側でいろいろ議論をしていたら、授業時間の1時間半が終わっていた…ということがあったんです。海外では教育も違うんだと驚きました。自分の意見を言っていい場があって、その意見をちゃんと聞いてくれる人がいて、相手も意見を言ってくれて広がっていく。そういうスタイルの授業があることを知って、なんかいいなって。私はもともと、積極的に意見を言いたいタイプなんですけど、でも日本の授業だとあまり言える環境じゃないんですよね。そこに対する違和感というか、もどかしさみたいなものを感じていたこともあって、大学は海外がいいのかなと思うようになっていきました。

赤レンガの美しい建物が並び、ボストンの歴史を感じさせる「Acorn Street」を背景に。

“やるべきこと”を認識して、
覚悟を持ってやり続けることが大切。

― 海外の大学を志望することに対して、ご両親や学校の先生の反応はどうでしたか?

両親からは、そこまで強く反対されなかったです。正直なところ、学校の先生から理解を得る方が難しく感じました。やっぱり国内の大学を勧められるというか、なんで日本の大学にしないんだとか聞かれるんですね。聞かれるんですけど、良くも悪くも私は深刻に聞き入れず(笑)、海外の大学がいいっていうのを思っていたので、先生方としっかり話し合いました。いろいろ大変でしたけど、ちゃんと説明して、最終的には納得して応援してくれました。

― 「いろいろ大変だった」ことの中身を、もう少し詳しく聞いてもいいですか?先生方の理解だけでなくて、海外進学に関する基本的な情報やサポートなど、地方にいると得られるリソースが少ないという点でも大変なのではと思うのですが…。

いよいよスタートした大学生活。渡米して間もない時期に、松野さんを訪れた。

私がネットで必死になって調べたイベントが、首都圏の学校だと壁に貼ってあるとか、先生が誘ってくれるとか、そういう話は聞いたことがありますね。地方だと、学校が提供してくれる情報って非常にベーシックなものなので、そこを自分でどう探せるかは1つ、ポイントだと思います。待っているだけの人はまず何もできないです。でも、探すためのツールを知っているのであれば、特に今の時代はネットがあるので、地方といってもハード面ではそんなに差がないはず。どこで差が出るかというと、探そうっていう意欲とか、生徒が持たなきゃいけない心構えだと思います。例えば、周囲の理解が得られたとしても、海外の大学に出願しているのは自分だけの場合、周りとは違うことをしなきゃいけないというギャップに耐えられるかどうか。試験対策で一番大変だったのが、エッセイを書くことだったんですけど、共通試験に向けた勉強をする同級生に囲まれる中で、私は休み時間にパソコンを広げてエッセイを書いたりしていて。海外進学するという選択肢が、“普通じゃない”と捉えられている環境の中だと、ある程度の自立性が必要なのかなと思います。大切なのは、自分がやらなきゃいけないことをちゃんと認識して、覚悟を持ってやり続けることです。

仮説が正しいとは限らない。
だから仮説を立てる前に、やる。

地方出身だからこそ、身についたものもあると思っています。先ほど話した“自分で情報を探すこと”と近いのですが、「自分でリソースを見つける力」、場合によっては、「リソースを自分で作り出す力」、はもともとのリソースがあまりない環境だからこそ備わった力だと思いますね。例えば、私は高校で英語ディベート部の活動をしていたんですけど、首都圏の高校チームとは違って、ネイティブや帰国子女の生徒はいなかったですし、専属のコーチや経験者もいない状況でした。だから、ネットで参考資料を集めてワークシートを作ったり、自分たちに合った戦略を考えたり…。

― それこそリソースの差というか、環境の差というか、ネイティブや帰国子女を擁する首都圏チームを相手に英語でディベートすることに対して、挫折はしなかったですか?

挫折はしましたよ(笑)。挫折というか、やっぱり圧倒はされるんですよね。個人的な意見になりますけど、活動し始めた時は良くも悪くも勘違いをしていたというか。ちょっと英語を話せるくらいで、喋れる、ディベートもできる、みたいな勘違いをしていて(笑)。その状態で行って、圧倒されて、メンタルをやられて、でもそこでやめなかった、折れなかったのは、圧倒されたことを深く捉えなかったからかなと思います。いい意味で、英語力の差をそこまで気にしなかったというか。そもそも英語のディベートって、英語力のコンテストではないですし。ロジックでちゃんと攻めれば、十分に勝ち目はあると思って、ディベートの本質的な部分を冷静に分析するようにしました。人って、よく仮説を立てるじゃないですか。何かをやる前に、仮説を立てたくなるんですけど、それが正しいとは限らない。私はどちらかというと、当初に予想していたものとは違う結果が出る可能性というのを信じていて、先んじて考えて何らかの芽を摘むよりは、その前にやるタイプです。だからこそ、英語ディベート部も最後の最後まで、モチベーションが途絶えずに続けることができたのかなと思っています。

いい政策は、いい仕組みから。
政策づくりのプロセスを見直したい。

― 今年2021年から、いよいよアメリカでの学生生活が始まります。大学でどんなことを学び、将来に生かしていきたいと考えていますか。幼い頃は飛行機に興味があって、工学を学びたいと思っていた時期もあったと伺っていますが、今は政治学に興味があるそうですね?

はい。航空工学をやりたくて、高校で物理の研究をしていました。落下した際の衝撃が最低限になる機体の条件を探り、実際に製作をする、という研究です。そこで1つ思ったのは、ものを作ったとしても、それが正しく使われないと、あんまり意味がないなということ。であれば、人が作ったものとか、見つけ出した定理や条理というものを、社会の中で正しいところに分配して、正しく使われるようにサポートする仕事をした方が、社会的にも価値があるなと思ったんですよね。あと、自分に向いてるなと思いました。社会問題について政策や解決策を考えることは、絶対的な正解がない分、ダイナミックさがある気がして個人的にもワクワクしたので、自分の適性としてはこっちなのかなって。

― 今のところ、取りたい授業の目星はつけていますか?

そうですね。1つは、「政策づくりにおける定量分析の有効性」という授業をまず取ってみたいです。アメリカだと、エビデンスを重視した政策、エビデンスに基づいた政策づくりが進んでいて、自分もその必要性をすごく感じるんですよね。日本の政策作り、政治のあり方で気になっているのは、政策としてやったことを検証する、次に生かす、ということがあまりできていないこと。将来のやりたいこととして、政策を作ることに興味があるものの、それ以前に、政策を作る時の根幹にある仕組みをちゃんと整えないといけないと思っています。その仕組みを確立するにあたって、本当にエビデンスベースでいいのかとか、データの中立性をどう安定的に保つかとか、これから大学での勉強を通して、明らかにしていきたいと考えています。政策が作られるプロセスそのものを見直したら、全ての人がちゃんと考慮される政策を作る、というのが、その先のビジョンです。

College Life

― 最後に、海外進学を考えている、地方出身の中高生のみなさんにメッセージをお願いします。

地方の高校から、海外の有名大学に進学したという記事を見ると、「自分もいけるのかな」と思いつつも、「勉強もできなくちゃいけない、課外活動もしなきゃいけないし」という、どこかやっぱり遠い話のような印象を持ってしまうと思うんですね。でも私は、決して“遠い話”ではないと思っていて。全てが完璧である必要はないと思います。みんなそれぞれに個性があって、やりたいことも違うので。特に地方出身だと、私は能力以上に、マインドセットが大切だと思っています。海外の大学に行きたいと思って、いざやろうって決心すれば、テストの点数は上がってくると思いますし、課外活動も精力的に取り組むと思うんですよ。少なくとも私の経験上では、自分はできないと思っていたとしても、「やろう」と決めたら、意外と上手くいく。だから、トライしてほしいです。できるんだ、っていうのは、思ってほしい。そこで一歩を踏み出せるか、出せないかの違いが、結果的に大きく影響するんじゃないかと思っています。

松野知紀 2021年入学 第5期生

ハーバード大学

茨城県立日立第一高等学校出身

中学、高校の時にオーストラリア、アメリカでの短期留学を経験。長期の海外生活は今回が初めて。幼い頃の夢はパイロット。高校時代には 「Y20サミット(G20大阪サミット公式附属会議)」に高校生特別枠20名の一員、唯一の日本代表として参加。

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