思い込んでいた「限界」の、その先へ。
高校3年生の夏に決心した、海外進学。

松濱育実

2022年入学 第6期生

ワシントン大学

香里ヌヴェール学院高等学校出身

松濱育実さんが海外進学を決めたのは、高校最後の夏。「挑戦することすら諦めていた」という松濱さんを動かしたきっかけは何か。

松濱育実さんが海外進学を決めたのは、高校最後の夏。「挑戦することすら諦めていた」という松濱さんを動かしたきっかけは何か。 アメリカ・ワシントン大学進学までやり遂げた、その背景にどんな気持ちの変化と努力があったのか。お話を聞きました。

アメリカ・ワシントン大学進学までやり遂げた、その背景にどんな気持ちの変化と努力があったのか。お話を聞きました。

August, 2022

ひとり親家庭で育ち、海外進学は
「挑戦する意味もない」と思っていた。

― 松濱さんが海外の大学へ進学することを決めたのは、高校3年生の6月だったと伺っています。進路を決めるには、本当にギリギリのタイミングだったんですね。それまで、海外の大学を受験するかどうか、迷っていたという状況だったのでしょうか?

渡米を控えた松濱さん。「まだ実感がないけれど、今から大学生活が楽しみです」

進路を迷ってはいたのですが、最初から海外の大学へ進学するかどうかで迷っていたわけではないんです。心のどこかで、海外の大学に行きたいなってずっと思ってはいたけれど、チャレンジする前から、諦めの気持ちの方が強かったと思います。私はひとり親家庭で育ってきたので、母が育児と仕事の両立に苦労する姿も見てきましたし、学費にかかる金銭的な負担の大きさも経験してきました。海外の大学に進学するなんて、金銭点な面でそもそも難しいので、挑戦する意味もないと思っていたんです。それに、自分なんかがやりきれるはずがないと、自信もありませんでした。

諦めなくていいかもしれない、と気持ちが変わり始めたのは、本当に偶然の出来事がきっかけです。高校の国語の授業で、先生が「進路に悩んでいるなら、校長先生がいいアドバイスをくれるよ」と話されていたので、相談してみようかなって。進路面談をしてほしいと、校長先生に直談判しに行きました。その面談で、私の成績、将来やりたいことを聞いて、校長先生が「海外の大学がいいんじゃないか」とアドバイスしてくださったんです。本当は海外の大学に行きたい気持ちはあるけれど、金銭的に難しいですとお話しした時に、校長先生が紹介してくださったのが、柳井正財団の奨学金プログラムでした。

その時に校長先生が貸してくれた、山本つぼみさんの著書『あたらしい高校生 海外のトップ大学に合格した、日本の普通の女子高生の話』も、私の気持ちを後押しするきっかけになりました。山本さんは、柳井正財団の奨学金プログラムの第1期生。留学経験はなく、地方の公立高校に通いながらアメリカの難関大学に進学された方で、山本さんの言葉、生き方にすごく刺激を受けました。憧れの先輩です。「もしこの奨学金プログラムに通ったら、母に迷惑をかけることもなく、金銭的な不安もなく進学できる。やりたい。やってみよう」と決意しました。

高校の校長先生から借りた、山本つぼみさんの著書。松濱さんにとって、山本さんは憧れの先輩だそう。

― 校長先生、山本さんに背中を押されて、海外の大学を受験すると決めてから、家族や先生を含め、周囲の理解を得ることは大変ではなかったですか?

母には、校長先生から柳井正財団の話を聞いた直後、海外の大学に行きたいと伝えた覚えがあります。母の最初のリアクションは「いいんじゃない!」。母は、「やりたいことを、やりなさい」という姿勢を貫いてくれる柔軟な人で、ありがたいです。校長先生をはじめ、学校の先生もサポートしてくれて、すごく恵まれた環境でした。ただ、学校としては海外の大学を受験する前例がなくて、前代未聞という受け取られ方はしていたかなと思います(笑)。どうしてそんなチャレンジをするんだろうと、心配してくださる先生もいて、「でも私はチャレンジしたい。将来にやりたいことがあるんだ」というのをひたすら伝えて、受験に向けてサポートしてもらっていました。

同級生たちが合格を決めていく中、
孤独、不安、焦りで押しつぶされそうだった。

海外の大学を受験すると決心はしたものの、孤独感と不安で毎日押しつぶされそうでした。海外進学という進路を選んだ人は私しかいない状況で、周りの同級生たちはどんどん日本の大学に合格していって…。叶うかどうかわからない夢を必死に追いかけて、ひとりで勉強を続けるのは、本当に不安だったし、焦りを感じていましたね。「この選択で合っていたのかな。みんなと同じように日本の大学に行っていれば、こんなに焦ることもなかったんじゃないか」と何度も思いました。

― その不安や焦りを、どうやって乗り越えていったのでしょうか。

乗り越えられたのかなあ…。正直にいうと、今も不安に思っているんですよ。乗り越えたというより、吹っ切れたところはあるかもしれません。私は別に、特別な存在じゃない。凡人なので、たとえこのチャレンジが上手くいかなかったとしても誰も気にしないんじゃないか。それなら、あまり考えすぎず、ただやれることをやったらいい、と。あとは、海外進学という道を選んだからこそできる経験というのが、合格までのプロセスの中ですでにたくさん得られていたのも、励みになったと思います。

例えば、アメリカの大学受験ではエッセイを書きますよね。そのトピックは、「あなたはどういう人間なんですか」という質問のものが多いんです。今の自分を作ってきたストーリーというか、バックグラウンドやアイデンティティをわかっていないと、エッセイを書けないようなトピックが多かったので、自分と向き合う時間がたくさんありました。私はどういう人間なのか、自分の中で一番大切にしているものは何か、自分は何をしたいのか。時間をかけてブレインストーミングしました。私という人間を作った大きな背景として、ひとり親家庭で育ったという環境が大きくて、ゆくゆくは、私と同じような環境の子の助けとなるようなことがしたい、とか。私は子どもと遊ぶのが好きで、ご飯を食べることも好き、とか。思いつくことを書き留めて、それをどんどん繋げて、考えを発展させていきました。それでまとまった私の夢は、アメリカの大学で経営やマネージメントを学んで、ベビーフードを作る会社を起業すること。その会社が成功したら、将来的にはひとり親家庭で育つ子どもを金銭面でも、メンタル面でも支援する財団を設立すること、です。

とことん自分と向き合うことで、
見つけることができた“私の夢”。

ベビーフードを作る会社を起業したいなと思ったのは、やっぱり私自身が、育児と仕事で忙しくしている母の姿を見てきたことが理由として大きい気がします。そこに、食べることと子どもと遊ぶことが好きという私らしさを加えた結果、ベビーフードというプロダクトが一番私に合っているんじゃないかと。アメリカのベビーフードのクオリティがあまり高くない、バリエーションも日本と比べると多くない、ということも知って、できることがありそうだなと感じています。ひとり親家庭で育つ子どもをサポートする財団の設立についても、私だからこそできること。私自身もそうでしたが、ひとり親家庭で育つことに対する共感、苦労、寂しさを共有できる相手が今はすごく少ない状況だと思うんです。財団を設立することで、金銭的なサポートはもちろん、メンタルの面でも支えられるような、悩みを共有できるコミュニティでもあるような場にしたいですね。

TOEFLまで準備期間2ヶ月。
独学と学校の先生との集中学習で伸ばした英語力。

海外の大学を目指すにあたって、英語力はどのようにして磨いていったのですか? 高校3年生の6月に進路を決めて、そこからかなりタイトなスケジュールだったろうと思いますが…。

毎日、コツコツと継続した語学の学習。「英語に関しては、私は耳から学ぶタイプ、と自分に合った勉強法を知っていたのがよかった気がします」

受験のためのTOEFLの本試験を8月末に受ける予定で、準備期間が2ヶ月しかなく…。TOEFLのプレテストを初めて受けたとき、リスニングが30点満点中4点で、これはやばいと思って(笑)。中学3年生の頃から、YouTubeの英語のコンテンツを毎日視聴して耳を慣らしてきて、自分としては英語を勉強してきた方だと思っていたので、すごくショックでしたね。それからはひたすら毎日、日本語より英語に触れる時間が多いんじゃないかっていうくらい、英語力をつけることに専念しました。私は実際に聞きながら学ぶタイプなので、朝の空き時間にはポッドキャストでCNNのニュースを聞いたり、YouTubeでTOEFLのリスニング、リーディングの問題をやったり。あとは学校のネイティブスピーカーの先生に協力していただいて、夏休みは毎日学校に行って、その先生とスピーキング、エッセイのライティング。長いときは1日8時間くらい、その先生に付き合ってもらって勉強して…。エッセイは、そもそも日本語でも書いたことがなかったので、その先生にゼロから教えてもらいましたね。毎日必ず1本は書いて、多い日は3本くらい。いろんな先生に見てもらって、添削していただきました。TOEFLの本試験では、4点だったリスニングが27点と、満点近くに上がって、正直、それだけでもう私は満足でした(笑)。もちろん、ワシントン大学から合格をいただいた時は、嬉しいを通り越して、なんかもう、夢みたいって思った覚えがあります。

いよいよ、アメリカ、ワシントン大学での学生生活が始まります。これから楽しみにしていることはありますか?

インターンシップですね。ワシントン大学は、ものすごい数のインターンシッププログラムを提供しているんです。その中から一番やりたいインターンシップを選んで、自分のキャリア形成の一歩を進むことに今からとてもワクワクしています。大学では経営学やマネージメントなど、ビジネスの基礎的なことを学ぶのも楽しみしているのですが、その実践としてインターンシップ、その先にベビーフード会社の起業をすることも視野に入れて、頑張りたいなと思っています。

College Life

― 最後に、松濱さんが今歩んでいる道は、さまざまな理由から、海外進学という選択肢はないと考えている中高生にとって、1つの可能性を示すロールモデルになると思います。彼らに向けて、何か伝えたいことはありますか?

私の経験から言えるのは、金銭的な限界や自分の自信のなさを理由に「できない」と制限をかけているのは、自分自身だということ。私も最初は、金銭的な理由を言い訳に、挑戦することすら諦めていました。でも、本当にやりたいと思うことがあるのなら、ちょっと無理をしてでも挑戦してみてほしい。やってみたら、意外とできることがあるよって、伝えたいです。

松濱育実 2022年入学 第6期生

ワシントン大学

香里ヌヴェール学院高等学校出身

大阪府出身。高校1年生の頃にアメリカ・オレゴン州への3ヶ月の短期留学プログラムに参加。ホストファミリーと上手くコミュニケーションが取れなかった悔しさをバネに、独学での英語学習を続け、ワシントン大学に合格。好きなことは、おいしいご飯を食べること。

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